iaku［いあく］＝大阪を中心に活動する劇作家（脚本家）・演出家、横山拓也が主宰する演劇ユニット

劇団事務所の契約書を探していたら、あるメモ用紙が出てきた...

１１年前、僕が大学を卒業して一人暮らしをはじめた頃のこと。
仕事から帰ると、郵便受けに１枚のメモ用紙が入っていた。

それは、学（まなぶ）さんという人物に宛てられた手紙だった。
僕が住む以前にこの部屋に住んでいた人なのだろう。
封筒に入っていなかったので、文面を読んでしまう。


僕はこの手紙を長い間保管していたのだ。



紹介しよう。



学

もう組に入る気になったか？
又事務所に来いや。
恐くないから。みんないい奴や。顔は恐いけどな。
お父も学めし食ってんのか心配してたわ。
又来るわ。夜寝れてんのか？
寝られへんかったらまた言えや、文句言うたるわ。
野球がんばりや。
夜うろちょろすんなや。

義





おお。
完全にアチラ側の人が、学くんを勧誘している。
「又来るわ」なんて言ってる。


そして、ほどなく２通目が届いた。
今度は義ではなく、しょうという人物が来たらしい。



学、今年成人式やったやろ。
祝い持ってきてんけどいてへんみたいやから又来る。
それと又事務所の電話番のバイトしてや。こわいおっさんばっかやけど、
ほんまはやさしいから来てや。
野球しっかりやってるか。
今年は出れそうらしいな。見に行く。
野球終わって大学卒業したら組入ってや。
何回も言うけど、いややとか言わんとってや。
おやじがやめたらオレが組長や。
おまえはええ位につけるから入ってや。
野球やってんねやからケンカはすんなや。
おっちゃんとおばちゃんに心配かけんなや。
すぐキレてたら損やぞ。ケンカの時は絶対手出すな。
すぐオレに電話しや。すぐ行くから。
キレやすいのは直しや。
お前は頭はええし、野球もできんねんから、人生を棒に振るな。
それだけ頭いれとき。

しょうより

PS 又親戚で集まるらしい。
手の上で書いたから見にくいかもしらんけど。





力作じゃないですか。
「怖いおっさんばっかりやけど、ほんまは優しいから云々」っていう表記が堪らない。
それと、「人生を棒に振るな」というアドバイスもイカス。

どうやら僕はあまり治安の良くないところに住んでしまったらしい。
その後、義やしょうに会うことはなかったけど。

３回引っ越ししたけど、これを取っておいた自分に拍手を贈りたい。